ABOUT

 520Paperbacksの創業者ケン・ザ・ネイキッド(1992~)は幼い頃から、喜怒哀楽その他多くの感情・情報が即席的に感じられ心に作用する「本」特に小説、文庫本が好きだった。
 生き方を求めて手に取り、答えは見つからずのまま読了し、棚に並べた敬愛する作家たちのお気に入りの本の数々。ここに、俺も肩を並べたい、自分の本が欲しい、と、かつて彼は願った。

 臆びょう者で口べたな彼は、人が発する台詞一つの言い回しや口調、言葉に、人間の面白さとくだらなさを敏感に聞きわけ、性格や品を見た。やがて経験した情景からあらゆる色と形状の台詞を拾い、想像した光景からかがやく言葉を引きとめおろしては、書きとめるようになった。
 彼はさまざまな場面や感情を描いた数行を繋ぎ合わせて膨らませ、編集した。そしてこしらえた、まるで漫画のように起こって転ばせて結んだ文章を人さまに読ませることにより、自分の頭の中にあった箱庭(けど読者の脳内では似て非なる色と光景)を彼彼女の再生させ面白がってもらうことに、充実感と喜びを覚えた。

 小説を出版する筋道としては、作品を文学賞に応募し、落ちて、を繰り返し晴れて何かしら賞を受賞、そして文芸誌に作品が掲載され、出版社から本が出る、というのが正統な手段だ。何度も意気込むことはあったものの幾度となく心を折り、締め切りを逃し、日本の都の出版社に作品を提出することをいつまでも躊躇っていた彼はは、ええい!自分で作ってみればいい!とも考えた。それも、然るべき費用をかけて製本所で何十、何百冊も刷ってもらって手元にどっさり届くであろう自費出版、ならぬ、書いて刷って綴じて、を地道に続けてやっとの思いで十何冊かできあがる"自家"出版で。

 ケンは、数年かけてある長編を執筆、推敲、印刷、製本と試行錯誤を繰り返した。
結局その作品は中断し、今、眠っていると聞く。
ひょんなことから別の小話を一丁、仕上げてしまったのだ。かるく短い物語を編んでこしらえることができれば、わりかしサクッと一丁あげられる程度の技術は培っていたことに、彼自身驚いた。私設文庫であるここに卸されるのはその、自家製技術の産物である。